読書百遍

会計・税務プロフェッションを目指している人の日々是好日

【連載】修士論文審査に落ちましたが、なにか? Vol.2

第2回 速読・多読


 卒業という結果を出せていない自分が、修論についてあれこれ書いたものをこうして読んでもらうために公開している立場上こんなことをいうのは矛盾が生じる。
 だが、敢えて声を大に出して言いたい。


「成功者のみから学びましょう。」


 失敗した人には失敗した理由があり、そこに正義はありません。やはり一番参考になるのは、実際に結果を出した方々の体験談です。そうした方々の声をテーマを絞って拾うと意外に共通点が多いことに気が付きます。共通点はおそらく成功の秘訣ともいえるでしょう。相違点があるとすれば、それは個々の性格や性質、性分といったものになるので、成功者の中から自分に向いている、性格が近い方の方法から真似てみるというのが、無駄を減らせます。


 えっ?じゃあ、私の体験談は読むに値しないのでは?ですって?


 いえ、失敗談は、反面教師として使えます。(そして、「他人の不幸は蜜の味」ともいうくらい面白く感じてしまうものです・・・私自身は、こうして恥をさらすことで満身創痍ですが・・・)


「俺の屍を超えていけ。」


 それに私みたいなポンコツさんは世の中いっぱいいるはずなんだ・・・忘れもしない、あの先生に言われたあの一言


「あなた、要領が悪いよね」


「・・・」


閑話休題


 先日もお伝えしたようにこれから大学院で税法2科目免除を目指す方々のために書いているので、入学前の準備編として学校探しや研究計画書等についても後日触れますが、まず必要な前提知識について触れます。


 この2年間で、改めて実感したこととして学問はあるテーマのあくなき研究をすることですが、研究に必要なものとして以下の3つが挙げられます。


1.情報(知識)Input
2.方法(知恵)Process
3.伝達(共有)Output


 それぞれについては、詳細を書くと長文になってしまうため、後日詳しくお話しますが、本日のテーマは「速読・多読」ですので、その点に絞ってお話します。時間がない方は、ここからのみ注意して読んでください。


 読書は、研究において必要不可欠です。上の必須条件3つすべてに影響を与えます。情報が増えれば、基礎知識が固まります。またテーマ選びも他のテーマと比較できるため、迷いも失敗も減ります。法律論文の書き方がわからない場合、本を読めば手法を学べます。書いた論文がうまく意味が伝わらないと感じたとき、伝え方のうまい先行研究を読むことで、伝え方を学びます。
 論文を書く過程で、「網羅的に情報を集める」ことを意識なければなりません。ですから、「読書が苦手です」という方は、あきらめて別の道を選ぶか、頑張って慣れるか、どちらの道を選ぶか腹を決めて下さい。(腹決めなくても、どうにかなっちゃう人は実際いるみたいなんですが・・・)


 論文執筆には、速読・多読が必須条件です。実際には当たり前すぎて、どの指導教授も口にすることはありません。ですが、論文を書く上で、最低条件としてこの「速読・多読」の知識は知っておくべきです。なぜ、スキルを身につけるではなく、知識を知るとしたかは「速読・多読」は特別な能力ではなく、ただの方法だからです。慣れは必要ですが、誰もができるようになるものだからです。


≪ある国税庁出身教授の言葉≫
 国税庁では、税務訴訟が始まると過去の類似判例をすべて洗う。もし、敗訴した場合には、次の裁判までに負けた事案に対して過去の事案をできるだけ多く洗う。通常は1週間くらいの短い期間にこの洗い直しを行う。たった一週間で時には一事案に50ページ以上もある判例や裁判例をすべて読むのか。現実的に考えてそれには無理であることは分かるだろう。では、どうするのか。結果だけに絞ってすべての事案を読めばよい。判例・裁判例における「裁判所の判断」の箇所だけを読むことである。
 判決に至った理由はそこにあり、原告や被告の主張は、「裁判所の判断」の前ではあまり意味がない。


※誤解を生まないように注記しておくが、これは判例や採決例を通読するなという意味ではない。教授の講義中の言葉を記憶から書き起こしたものなので、多少違いもあるかもしれない点についても触れておく。
※上記の教授の教えを、「時間が限られている中、馬鹿正直にすべてを読もうとするな」という意味で私自身は解釈している。ここに「速読・多読」の真理があるとみている。


速読や多読は、すべてを早く、多く読むことではなく、自分が必要としている情報を早く、多く手に入れることであるといえる。自分が必要としている情報とは、税法論文に限っては自分の主張を支えたり、対立している主張を支えている根拠となる判決や学説のことを指す。だから裁判所の判断が重要視されるのである。そこに主張を支える理由である論理が展開されているからである。


≪参考文献≫
▼一般的な速読本
▽受験勉強を中心に書いた速読勉強法
宇都出雅巳「1日1分からはじめる速読勉強法」PHP文庫2010年初版
▽スキャニングなどのスキルを中心として書かれている速読術
斉藤英治「すごい速読術ひと月に50冊本を読む方法」ソフトバンク文庫2008年初版
▽一般的な日本の教科書を中心にした速読勉強法

東大首席が教える超速「7回読み」勉強法 (PHP文庫)
東大首席が教える超速「7回読み」勉強法 (PHP文庫)
PHP研究所

▽なぜ本を読むのかという目的から説いている速読勉強法

知識を操る超読書術
知識を操る超読書術
かんき出版

▼論文執筆に関連した速読本(もしくは速読について触れている本)
▽山口真由氏の7回読みとの共通点がある速読法

大学生のための速読法――読むことのつらさから解放される
大学生のための速読法――読むことのつらさから解放される
慶應義塾大学出版会

▽思考のプロセスに特化したレポート・論文の作成法
論文執筆の上で、目的に則した文献の読み方を3つに分けて解説している
ステップ1 情報を効率的に点検する「概略的読み」=速読に近い読み方
ステップ2 論理の組み立て方を理解する「構造的読み」
ステップ3 議論を組み立てる「批判的読み」

思考を鍛えるレポート論文作成法 [第3版]
思考を鍛えるレポート論文作成法 [第3版]
慶應義塾大学出版会

▽予備作業・リサーチ・執筆の3ステップに分けた論文執筆法
ステップ1の予備作業第2章にて速読について触れている。

論文の書き方マニュアル--ステップ式リサーチ戦略のすすめ 新版 (有斐閣アルマ)
論文の書き方マニュアル--ステップ式リサーチ戦略のすすめ 新版 (有斐閣アルマ)
有斐閣

▽読む・書く・伝える・PCのテクニック毎に全55のステップに分けて書かれたレポート作成法
読むテクニックの項目で通読や速読について触れている

はじめてのレポート―レポート作成のための55のステップ
はじめてのレポート―レポート作成のための55のステップ
嵯峨野書院

▽上記の最新版
学術書は常にアップデートするため、出来るだけ時代に沿った改訂がされた最新版を読んだ方がよいという一例として

はじめてのレポートTextbook
はじめてのレポートTextbook
嵯峨野書院

▽法学部での学び方に特化した法律論文やレポートの作成法
速読については触れていないが、論理を展開するとはどうするのかなどに触れていて論文執筆のためになぜ読むのかの目的が明確になるためおススメしたい本

リーガル・リサーチ&リポート
リーガル・リサーチ&リポート
有斐閣

こちらも同様に最新版が出版されているので、ご紹介。

リーガル・リサーチ&リポート -- 法学部の学び方 第2版
リーガル・リサーチ&リポート -- 法学部の学び方 第2版
有斐閣

 有斐閣本は学術書で素晴らしい本が多い。多く読みこなせば、読みこなすほど特定の学問分野に強い出版社なども分かってくるので、頭の中にある程度の出版社と得意分野の分布図が出来上がってくる。弘文堂、有斐閣、信山社、中央経済社、税務経理協会、ぎょうせい、大蔵財務協会などが税法について勉強する上でよく目にする出版社になってくるだろう。
 ちなみに税理士法人に勤務していたときに教えられたことであるが、税理士が極力参照すべき書籍はぎょうせいや大蔵財務協会からのものという常識があることを知った。理由として取引先が主に官公庁のため、内容が保証されていることが理由にあることを教えられた。こうしたことは、法令>判例>学説という説得力のバランスがあることを大学院で勉強していくうちに知るので、なぜそうなのかも理解してくるだろう。
会社概要 | 株式会社ぎょうせい
大蔵財務協会について | 大蔵財務協会
 今回は参考文献を多く載せました。常に的を絞った本だけでなく、その絞った的の分類の中から他にも役に立ちそうな情報を抜き出す癖をつけてほしいと願っているからです。
 もともとは速読のことについて調べたくて関連本を読んだのではなく、論文の執筆方法がいまいち納得できずに、法律論文の書き方の本を漁る内に実際に掲載されている文章や実体験から速読の必要性を痛感したから速読の知識について調べたという経緯があります。
 皆さんも時間は有限ですので、「税法論文を1本書き上げる」ことをまずは目標に行動してみてください。個々の執筆者に必要なものは自ずと目標に向けて動いているうちに壁にぶち当たって気づくことが多いですのでご安心ください。


≪本日のポイント≫
論文を書く上での書籍検索では、図書館の本棚で目的の本がある棚の中からテーマが近そうなものを必ず最低5~10冊抜いてすぐ「奥付・著者略歴」、「はしがき・おわりに」、「目次」、「索引」はチェックする癖をつけておくと情報が集まりやすい。
①奥付・著者略歴 その書籍の年代、著者の背景(学者、元最高裁判官、元国税庁等)
②はしがき・おわりに その書籍の目的や目指しているゴール、対象としている読者
③目次 必要な情報の有無(テーマに沿った内容の情報があるかないか)
④索引 必要な情報の有無(テーマや問題意識のキーワードが取り上げられているか)


▽まだピンとこない方のために

初公開!速読多読術~1日20冊の本を読むための読書法 前半無料→
 動画は30分あります。無駄な尺もありますので、時間のない方は、コメント欄で内容が要約されていますので、そちらをご参照ください。勉強家のメンタリストDaigo氏らしい見解で、上記で紹介した書籍でも共通する内容は多かったため、ほぼ的を射ていると賛同してもよいと思いました。
「初見のノート取りはおろか」
「目次を見ないで本を買うとか信じられない」
はかなりツボりました。特に初見のノート取りをやってしまっていた人間としては、その後に続くなぜおろかかがあまりにもママの実体験だったため、恥ずかしい限りです。


※文頭の「成功者のみから学びましょう。」の話にもつながりますが、悪い本は反面教師として使えるという彼の話もこのブログの趣旨に近いと思います。


≪用語集≫
速読 [名](スル)本などを普通よりも速く読むこと。
多読 [名](スル)本をたくさん読むこと。
精読 [名](スル)細かいところまで、ていねいに読むこと。熟読。
通読 [名](スル)始めから終わりまで読み通すこと。また、ひととおり目を通すこと。
輪読 [名](スル)数人が一つの本を順番に読んで解釈をし、問題点について論じ合ったりすること。
出典:https://dictionary.goo.ne.jp/